「おばあちゃんから、預かっていたのは本当の事なの。中身は、勿論見てないんだけど、おばあちゃんが宝物だって話してた。……私に預けるのは、自分に何かあった時に、茂さんに渡して欲しいって」

砂月は、視線を、自転車の前輪の影が映るアスファルトに落とすと、寂しげに言葉を(こぼ)した。

「施設の人に、特に何も言われなかった?」

「うん、渡し物の件と、中田カヨさんと茂さんの親戚と言うことと、茂さんへの面会希望の旨を伝えたんだけど、受付の人にやっぱ名前聞かれちゃって……私、嘘つけなくて。
私の名前、言ったんだけど……おばあちゃん、こうなるの分かってたのか、受付の人に『さつき』という女の子が、訪ねてきたら、私の代理だからと、(ことず)けてくれてたみたいで」

砂月は、少し俯いたかと思ったら、小さな口元を、きゅっと結んだ。

「……今日は、泣かないって決めてるの。泣いたって身体の水分出て行くだけだもん。……死んじゃった人は、戻ってきたりなんかしないから」

「砂月、ちょっと強くなったじゃん」

目尻を下げた、俺を見て、砂月が恥ずかしそうにはにかんだ。