「……カヨおばあちゃんの旦那さん、茂さんって言う人らしいんだけど、認知症を患ってて、長く施設に入居してるらしくて……自分に何かあった時は、茂さんに私から知らせて欲しいって。カヨおばあちゃんと茂さん、お子さんが居なくて、夫婦二人三脚で生きてきたって言ってたの」

大きな瞳を、少し揺らすと、意を決したように砂月が真っ直ぐに、俺の瞳を見た。

「でね……私、考えたんだけど……わたし……おばあちゃんを茂さんに会わせてあげたいの」

「……え?それって……」

途端に、怪訝な顔になるのが自分でも分かった。砂月の言いたい事が、わかったから。

「うん……カヨおばあちゃんに、憑いてもらって茂さんに会いに行きたいの」

「だめだ!」

思っていたよりも、冷たく突き放した言い方になった。しまった、と思ったけど、俺の言葉は止まらない。

「絶対だめだからな!俺は、砂月が憑かれるだけでも嫌なのに、憑かれて会いに行くとか絶対だめだ!結局、嫌な思いすんのも、怖い思いすんのもお前だろっ?いい加減分かれよ!」

自ら恐い思いして憑かれて、更にその憑かれた人の家族に会いにいくとか、ありえないだろ。砂月の負担しかないだろ。

砂月は、しばらく俺の目をみていたが、黙って膝に視線を落とした。