「お前が、送って行かなくたって、砂月のためなら、毎日逆方向でも俺は送るよ」 

にやりと口角を持ち上げる、その端正な顔を、マジで殴ってやりたい。

短い茶髪に切長の目元で、鼻筋はすっきり通っている。整った薄めの唇に、左耳にピアスが光る。百八十近い高身長だが、俺の方がコイツより二センチほど背が高い。

身長以外に、コイツに見た目で勝てる要素はあるのだろうか。考えんのも嫌になる。

「人見知りの砂月が、嫌がんだよ、そんなこともわかんねーのかよ、ばぁか」

「砂月のひっつき虫だな、砂月もいい迷惑だと思わないのかよ」

振り返りもせずに返事した、俺の椅子の下を、また駿介が蹴った。

「いちいち蹴んなよっ!砂月は、お前には関係ねーだろ!」

俺は一息で言うと駿介に向けた半身を、再び前に戻した。勢いよく戻した勢いで、谷口先輩の鍛え上げられた上腕二頭筋を鼻先が掠めて、汗と土の匂いがした。

「そこの茶髪のお前!見た目だけの判断だが、足が早そうだな?中学のときのでいい、50メートルのタイムはいくつだ?」

俺たちの会話を、傍観していた谷口先輩が、急に割って入ってくる。

勢いよく前のめりになった先輩の上腕二頭筋が、今度こそ、ゴンと俺の鼻に当たった。

「え?何口先輩でしたっけ?俺?砂月口説きたいんでクラブ入らないっす。ちなみに50メートルは5.90秒です」

(げっ……コイツ俺より0.1速い。コイツは走りも早いのかよ)

 鼻を摩りながら、世の男子の持ちたいものを持ってる集合体が、駿介なのだと確信する。

「な、なんだと!お前もめちゃくちゃ早いじゃないか!」