すぐに首を振る、砂月に少しだけ、安堵しながら、俺は、砂月の頬にそっと触れてこちらに向けた。

砂月は泣き腫らした顔をしていた。黒い大きな瞳の端が痛々しく擦れて腫れている。何度も涙を拭いたのだろう。

「……やだ……」 

ぐいと、俺の体は、砂月の両手で押し返される。俺は、そっと両手で身体ごと包んでやる。

「……ゆっくりでいいから。砂月何があった?」

小さな子を、あやす様に背中を摩る。

「お、ばあちゃんが……死んじゃった……」

「……?おばあ、ちゃん?」 

砂月には、祖父母はいない。既に亡くなっているはずだ。

「……話せる?無理しなくていいから、側にいるから」

砂月は、小さく二度頷いた。

「お母さん……の担当の中田カヨさんっていうおばあちゃんが居て……カヨおばあちゃん、ご主人以外に身寄りがなくて、寂しがり屋だから、お母さんが土日休みの時に、私もくっついて、個人的に……会いに行ってたの」

ーーーー知らなかった。そういえば、時折、美紀子さんと出かけるからと土日、砂月と昼間、会わないことがあったが、砂月も美紀子さんは、二人きりの家族だ。

親子二人の時間を、楽しんでいるのかとばかり思っていた。

「私、おばあちゃん居ないから、 カヨおばあちゃんとお話しできるのが楽しみで……美味しい肉じゃがの作り方、教わったり……お手紙のやりとりしたり……」

時折思い出しては、また砂月の瞳から雫が(こぼ)れて、俺は、その度に、華奢な背中を摩ってを繰り返した。

「私……カヨおばあちゃんが、大好きだったの……」

おそらく祖父母の居ない砂月は、本当のおばあちゃんの様に慕っていたのだろう。何度も拭った目尻の真っ赤に腫れた筋痕が、砂月のカヨさんへの想いを表していた。