県立病院は、砂月の母親の美紀子さんが、看護師として働いている。美紀子さんに何かあったのだろか……?

自転車を停めていたら、ポケットでスマホが震えた。

ーーーー駿介からだ。「砂月は大丈夫だ」と一言だけ返した。

平日でも県に一つしかない県立総合病院は患者で溢れている。俺は、ロビーを突っ切ると、左に曲がり、小児科病棟の手前のドアを開いた。

昔、母さんのお見舞いに何度か来た事がある俺は、中庭の場所は分かっていた。

四季折々の樹木が植えられ、通路沿いに均等並べられた花壇からは、パンジーが色とりどり咲いていた。自転車でここまで全速力で漕いできた俺の心臓が煩く跳ねている。

はやる気持ちを抑えながら、隅のベンチから、砂月の姿を探していく。入口から、一番離れた落葉樹の木の下に、俯いている小さな背中を見つけた。

「砂月っ」

一瞬、砂月の身体が、びくんと跳ねたが、こちらを見ようとはしない。俺は黙って隣に座った。

時折、砂月のスカートに、ぽたんと丸い粒が落ちて消える。両手は、スカートが皺皺になるほどぎゅっと握られていた。

「…ちゃっ……た」

「え?」

「死んじゃっ……ひっく……」

「砂月?美紀子さんに何かあったのか?!」