教室に入ると、既に一限目の数学の授業が、始まっていた。後ろのドアから、俺は身を屈めるようにして入ったが、数学の教師にジロリと睨まれる。

そして、席に座るとすぐに、駿介に椅子裏を蹴られた。俺は小声で返事する。

(何すんだよっ)

(おい、彰、砂月と喧嘩したのか?)

(……うるせーな)

お前のせいだ。時折、黒板から目を移しこちらを見ている教師に気づかれないように、駿介と小声でやりとりを繰り返す。

(砂月は、いつ来る?)

ーーーーえっ。

駿介の言葉に、対角線上の廊下側、前の扉から二番目の砂月の席を見て、俺は、心臓が止まりそうになった。

(彰?おい、砂月は?) 

駿介に返事する間もなく、俺は、スマホ片手に鞄を抱えると教室を飛び出していた。

ーーーー俺のせいだ。昨日、砂月に勝手に怒って冷たくして、駿介に嫉妬して、砂月は朝、俺の部屋の扉の前まで来たのに開けられなかったんだ。俺があんな態度とったから。

自転車に跨ると、すぐに砂月に電話を掛ける。 

(まさか……憑かれたりしてないよな……)

俺の手は、汗でびっしょりと濡れていた。

スマホから流れるコール音が無機質に繰り返される。砂月本人が出てくれたら一番良いが、砂月じゃなくてもいい。憑かれた砂月でもいいから、スマホにさえ出てさえくれれば。

何コール鳴らしただろうか。砂月からの応答はない。

俺は大通りまで自転車で走って、横断歩道でスマホ片手に信号を待つ。