「あ、砂月ね、スマホ机ん中、忘れたの思い出したから、教室行ってくるってよ」

あと、駿介はトイレね、と愛子が付け足した。

俺は別に、砂月を屋上で待っていても良かったが、座りっぱなしで足がだるかったのもあって、屋上階段を下って教室に向かうことにした。

教室のある廊下には誰も居ない。皆各々、部室や体育館などを使用して、文化祭の準備しているせいだろう。

そして、『一年一組』のプレートが見えた時だった。 

「……その、……かな?」

「いや、俺は嬉しいよ」

ーーーー聞き覚えのある声だった。

俺は、咄嗟に音を立てない様に、ゆっくり教室への足を進める。

聞いてはいけない。見てはいけない。

どこかでそう思うのに、足は止まらない。僅かに開いている教室の扉を覗くと、やはりそこには、そうじゃなきゃいいと思っていた二人の姿があった。


砂月が、駿介を見上げる様にして、駿介に小声で何か話している。

時折、恥ずかしそうに俯いては、また駿介に何かを訊ねる。途中首を振って困ったり、笑ったり……あんな顔、俺にしてただろうか。

その時、窓から吹き込んだ秋風が、砂月の髪をふわりと、巻き上げた。

「わっ……」

長い髪を抑えるようにした砂月を見ながら、駿介がふっと笑った。

「風強いね、大丈夫?」

さりげなく、砂月の髪の毛を、手で駿介が梳かしてやる。

「あ!だ、大丈夫だよ、ありがとう」

駿介の腕を、丁寧に押し返しながら、砂月が俯きがちに答えた。

「あ、あの内緒ね」

「勿論」

頬を赤らめたまま、駿介を見つめる砂月を見て、とうとう俺は、我慢の限界がきた。半開きだったドアを、バンッと音を立てて開け放った。

「彰っ」

ーーーーしまった、と砂月の顔に書いてある。