余程悔しかったのか、駿介が「言葉忘れたのかよ。やっぱゴリラだな」と、俺にだけ聞こえるように、負け惜しみを呟いた。

数時間前まで真っ白だったパネルは、大きく整った黒色の文字で『かき氷』と書かれ、その横に赤い文字で『陸上競技部』とある。

その下に苺、レモン、メロン、ハワイアンブルー味のかき氷のイラストがそれぞれ描かれて、小さく谷口先輩の顔が描かれていた。

先輩の特徴は、そのままに、可愛らしいタッチで、かき氷屋のマスコットキャラクターのように見える。

最後の仕上げで、谷口先輩が、必勝祈願の達磨に目玉を描く様に、自分の目を黒で色付けた。

「やったぁ!完成ーーーー!!」

 愛子が筆を放り投げて、手を叩いて喜んだ。

「いやー!素晴らしい!これこそ、まさに芸術だな!あとは、当日売って売って売りまくるだけだ!ガハハハッ!!」

谷口先輩が、両手を空に突き上げて叫んだ。

黙って作業していた三時間分の雄叫びが、秋空に吸い込まれていく。

「あれ?砂月?」

さっきまで愛子の横で飴玉を転がしていたかと思ったが姿が見えない。よく見れば、パネルの横にドロップの缶が、ちょこんと置き去りになっていた。