「先輩、バケツに適当に、水入れてきてくれます?駿介は、絵の具適当に出してってよ」

「俺、いま帰ってきたんだけど」 

「やって!」

「はいはい……」

愛子から、テキパキと出される的確な指示に、反抗できる余地はどこにもない。

駿介は、しゃがみこむと黙って、パレットに赤色のアクリル絵の具を出した。

「春宮彰、あんたもボーッとしてないで、駿介と絵の具でも出しなさいよ」

愛子の肘が脇腹に入る。

「痛っ!!……てゆーか、今日だけで完成させるとか無理じゃね?」

渋々、駿介の隣にしゃがみ込んだ俺に、愛子の怒声が降り注ぐ。

「春宮彰うるさい!」

今度は、足のつま先をわざと踏んづけられる。

クスクスと砂月が横目で笑った。

「文化祭終わったら、すぐ地区大会あるんだから!今日中に仕上げて、明日からまた練習!」

今の愛子に、何を言っても無駄と言うように、俺の肩に手を置いた駿介は、首を振った。

そして、意外だったのは谷口先輩だった。

あの見た目からは想像もつかない、繊細な筆使いで、砂月の下書きの線から一ミリも、はみ出す事なく、正確に丁寧に色を落としていく。

それもあの、谷口先輩が一言も言葉を発することなく、黙々作業に没頭していた。

女子達からは、拍手喝采と黄色い声援があがる。