砂月が、用具置き場で憑かれてから四か月、合宿から三週間……本当に平凡でありきたりな高校生活を俺たちは送っていた。

ただ毎日を平凡に過ごせることに、俺は、ちっぽけな優越感すら感じていた。

 「彰!お前な、マジでありえねーだろ。何でお前が昼寝してて、俺が!ゴリと買い出しなんだよ!」

いきなり脇腹をつま先で蹴られ、俺の夢遊散歩はあっけなく終わった。

「痛ってーな、駿介!蹴るなよ!」

 痛みで起き上がると、両手に画材の入った袋を両手に持った駿介が、恨めしそうに俺を、見下ろしていた。

「やあ!!諸君!!待たせたな!」

屋上の扉が、バンっと、大きく開いたと思ったら、屋台の看板となる長方形パネルを軽々と、両脇に四枚ずつ抱えた谷口先輩が、鼻息荒くガハハと笑った。

来週に控えた文化祭に、我が陸上競技部は、かき氷屋を出店する事になっている。

「先輩、買い出しご苦労様です。じゃ早速作業始めましょ」

愛子が、駿介から画材の袋を奪い取ると、逆さまにして、中身をコンクリの上に散りばめた。

谷口先輩が、パネルを屋上の中央に並べていく。

「砂月、鉛筆で下書きしてくれる?」

「うん、分かった。愛子ちゃん、字が綺麗だから看板の文字」

「あ、うん。文字はあたしが書くね」

 砂月は、昔から絵が上手だった。上手なだけでなくて、色彩感覚も豊かだった。一つの色から色んな色を作って、平坦な画用紙に色づけていく様は、小さな魔法使いだと、幼心に俺は、思っていた。

そういえば、砂月はあの時、確か向日葵の絵を書いていた。砂月から、特に向日葵が好きだとは聞いたことない。砂月が向日葵を書いた理由って何だろう?

「分かんねぇな……」

「どしたの?彰?」

ふと呟いた独り言に、砂月が、隣から、俺を覗き込んだ。

(やばっ……近い)

砂月の大きな瞳に見つめられて、顔が熱い。慌てて、俺は、平静を装う。

「別に、何でもねぇ、んっ……」

急に、口の中に甘い香りが広がって、カロンと音が鳴る。目を丸くした俺を見ながら、砂月がクスッと笑った。

「彰にもあげる」

カロンコロンと飴玉を転がす、砂月に見惚れながら、俺は、小さく、お礼を言った。