「おとうさん、……しんじゃったんだね」

谷口先輩が、そっと(くる)むようにして桃を抱きしめた。

「……あぁ、黙っていて悪かった。お前に嘘を吐いた。お前には嘘は付くなと口煩く言っているのに情けないな。悪かった」

俺は、谷口先輩の大きな背中が、震えて泣いているように見えて苦しくなる。

「もものためだもん。おねえちゃんもそういってた」

「……あぁ、今度からは何でも話そう。誓うから。お兄ちゃんは桃の笑ってる顔か大好きだ。父さんが居なくても、俺が、ずっと守ってやるからな」

あたたかい優しい笑顔だった。桃がぴょこんと谷口先輩に抱きついた。

「……うん、でも、おとうさんにできたらあってみたかったな……」

寂しげに笑う桃に、俺は思わず口を開いた。

「桃、何で砂月にお父さんが憑かなかったのか、わかるか?」

桃が小さく首を振る。俺は桃の頭をふわりと撫でた。

「砂月が、憑かれるのは、未練を残した迷える魂だけだよ。だから、桃のお父さんは、何も心配してないんだ。だから、砂月に憑かなかった」

「そうだね、桃には、こんなにカッコよくて強くて優しい、お兄ちゃんが居るからね」

愛子が目を細めた。

「……そうか、父さんは、安心して俺達を見ててくれてるってことだな」

谷口先輩が、墓標を見つめる。

「胸を張っていいんだな。父さんが、安心できてるくらい、俺は、ちゃんとできてるってことだよな」

谷口先輩は、静かに墓標に手を合わせた。