「大丈夫じゃ。饕餮はまっすぐに大廟堂に向かっている。饕餮の目的はそもそも皇帝じゃからな」

「饕餮の目的が、劉赫?」

 雪蓉は納得いかないといった顔で仙婆を見た。

 どうして饕餮が劉赫を狙うのだ。

「仙術をかけた者の狙いが皇帝だからじゃろ。饕餮も仙術にかけられている」

「一体、誰が……」

 雪蓉の問いに応えられる者はいなかった。

 明豪は気を取り直して、仙婆に言った。

「じゃあ、思う存分暴れてもいいってことだな?」

「騒いでもいいが、血は出すなよ。人間の生き血の匂いを嗅いだ饕餮は、自分の目的を忘れてこちらに来る可能性がある」

「分かった」

 明豪は力強く頷き、北衙禁軍に向かって指令を高々に告げた。

「剣の柄で後頭部を思いっきり殴れ! くれぐれも斬りつけるなよ!」

「「はいっ!」」

 総司令官からようやく反撃の指令を受けた北衙禁軍は、水を得た魚のように生き生きと動き出した。

 元々武力には、歴然とした力の差がある。数刻もすれば、騒ぎは収まるだろう。

 まだ終わってはいないが、とりあえず事態の収束が見えてきたので、雪蓉はほっと安堵した。

しかし、仙婆の次の一言で、再び緊張感が走る。

「饕餮が大廟堂に入りおった」

 ……ついに。雪蓉はごくりと唾を飲み込んだ。

「劉赫はこれまでに神龍を解き放ったことがあるの?」

 雪蓉の問いに、明豪は静かに頷いた。