驚いて雪蓉が声を上げると、仙婆はひょいと木から飛び降りて、くるりと一回転して地面に着地した。

あまりの身のこなしの軽さに、雪蓉は開いた口が塞がらなかった。

「な、な、な、なんでここに……」

 色んな意味で驚き過ぎて声が震える。

「饕餮が結界を破って逃げ出したからな。饕餮を鎮める仙としては、黙って待っていられなかったのじゃ。

責任持って、饕餮を連れ帰らねばならん」

「饕餮を追いかけてきたの⁉」

「いかにも」

 仙婆は、何でもないことのように頷いたが、霊獣の速さに追い付くということは、仙婆って足が速かったのね、で済む話ではない。

さっきに身のこなしといい、人間離れしている。

 いつも、「あー、腰が痛い。足が痛い」と言って女巫たちに肩や足を揉ませている人と同一人物とは思えなかった。

 驚いている雪蓉を尻目に、明豪は冷静に赤い実のことを訊ねる。

「仙術の毒実だとすると、やはりあいつらは誰かに操られているというわけか」

「恐らく饕餮を結界から解き放った人物と同じじゃろうな。並みの人間にそんなことができるはずはない」

「じゃあ、この実を吐き出させれば、あいつらは元に戻るのか?」

「さよう。深い眠りに落ち、起きたら何も覚えていないだろう」

「よし、分かった。頭を殴ればいいんだな」

 防戦一方で衛兵と戦い続けている北衙禁軍に、指令を出そうとした明豪を雪蓉が慌てて止める。

「待って! これ以上騒いだら饕餮がこちらに来てしまうわ!」

「大声出して平低鍋で頭をぶん殴ってた奴が言うか?」

 明豪は呆れたように言った。

 雪蓉はもっとも過ぎて言い返せなかった。

でも、腹が立ちすぎて、気が付いたら体が動いていたのだ。

考えてやったことではない。