濃灰(のうかい)一色の絹の室内着に、肩には上着を羽織り、寝台に腰をかけている劉赫は、臣下が真っ青な形相で持ってきた書簡を鋭い眼差しで見つめる。

 寝台の脇に立っていた明豪が口を開いた。

「いかがいたしましょうか?」

「……そうだな」

 まだ考えあぐねている様子の劉赫は、曖昧に口を濁した。

 すると、廊下からバタバタと大きな足音を立ててこちらに走ってくる物音が聞こえた。

「いけません、まだ取り次ぎが終わっておりませぬ」

「そんなの待ってられないわよ! こっちは緊急の連絡があるのよ!」

 臣下と揉めているやりとりが筒抜けだ。

「こんな時に。どうします? 追い返しますか?」

 明豪が迷惑そうな顔で言った。

「いや、通せ。おそらく、これと同じ内容だ」

 劉赫は書簡を軽く上に掲げて言った。

明豪は一瞬驚きの表情を浮かべてから、扉を開けに行った。

 扉が開くと、雪蓉は臣下の間をすり抜けて飛ぶように入ってきた。

 中に明豪がいたことに驚くも、すぐに目線は寝台へと移る。

「劉赫! 大変! 饕餮が洞窟から抜け出したわ!」

 劉赫の読み通り、火急の知らせと全く同じことを知らせる雪蓉に、明豪は驚いた。劉赫は寝台からゆっくりと立ち上がる。

「ああ、そのようだな」

「え⁉ 知ってたの⁉」

「ついさっき、知らせが届いた」

 肩で息をしながら、拍子抜けしている雪蓉に、明豪は当然の質問を投げかける。

「なぜ分かったのだ?」

「感じたのよ。饕餮がこちらに向かっている気配を」

 雪蓉の言葉に、劉赫が反応する。

「饕餮がこちらに? それは知らせには載っていなかった情報だな。雪蓉は饕餮がどこにいるのか分かるのか?」

「なんとなくだけど……。今は森の中を進んでいるわ。饕餮はなぜかとても混乱している。

けれど、彼には目的があるようで、真っ直ぐこちらに向かってきているわ」

「目的……。饕餮は意思を持たないはずだが」

「なぜかは私にも分からないわよ。ただ、強い衝動のようなものにかきたてられているのは感じるの」

 遠く離れた饕餮の動きを察知し、奴の感情まで感じ取っている雪蓉に、劉赫は戸惑いを覚えた。

 切羽詰まったこの状況では、雪蓉の感じた情報はとても役に立つ。

しかし、それは饕餮と雪蓉が繋がりを持っていることに他ならない。

仙としての能力が芽生え始めている証拠だ。

(無理やり饕餮から離し、後宮に連れてきたのは正解だったようだ。このままでは確実に雪蓉は仙となっていただろう。

仙になることが、どんなことかも知らずに)

 じっと雪蓉を見つめる劉赫に、雪蓉は怪訝(けげん)な眼差しを向ける。