ふっ、と劉赫はわざとらしく鼻で笑った。

「まさかお前、俺のこと意識しているのか?」

「はあ⁉ なんでそうなるのよ!」

「だって、添い寝はちょっと……だなんて、いやらしいことでも想像していなきゃ出てこない言葉だろ」

「い……いやらしいですって? 失礼な、私がそんなこと思うわけ……」

「ちなみに俺はお前に言われるまで、そんなことまったく考えもつかなかった」

「な……」

 雪蓉は開いた口のまま、わなわなと震え出した。屈辱である。

「私だってあんた相手にそんなこと考えてないわよ! 考えていたら一緒に寝ようか? なんて提案していないわよ!」

 雪蓉は怒りながら、寝台に乗り、劉赫から布団を奪い取った。

「さあ、さっさと寝るわよ!」

 劉赫の隣で横になった雪蓉を見て、劉赫は勝ち誇ったような笑みを浮かべたが、布団を頭から被っていた雪蓉には、その顔は見えなかった。

 念願の添い寝……。

 劉赫は幸せを噛みしめながら横になった。

 すると、顔と顔が向かい合い、目が合った。

相手の呼吸までも感じられる距離にいることを自覚すると、急に顔が赤くなった。

 それは、雪蓉も同じだった。思っていたよりも近い距離に、心臓がうるさいほど鼓動する。

「ちょっと、あっち向いてよね」

「なんで俺が……」

 拒否しようとして、やめた。

劉赫は素直に雪蓉の言葉に従い、体を反転させた。

(心臓が、もたない。息すらできない。死んでしまう)

 理性が一瞬で吹き飛んでしまいそうなほどの破壊力に、劉赫は勝てなかった。

 反対方向を向いてくれた劉赫に、雪蓉は心からほっとした。

「じゃあ、約束通り、子守歌うたってあげる」

 雪蓉は、劉赫の背中を見ながら、美しい声で歌い出した。

 評判だという雪蓉の子守歌は、どうやら本当のようだ。

透き通るような優しい声色だった。

 そんな素晴らしい歌声に劉赫はさぞ感動しているかと思いきや、本人は子守歌どころではなく、まったく聞いていなかった。

(さあ、ついにここまできたぞ。問題はここからだ。

ここからどう距離を詰めるかだ。

性急に進めては拒まれるのは明白。

考えろ、考えるんだ。

どうすれば雪蓉をその気にさせられる⁉)

 雪蓉の優しい気持ちを踏みにじるかのように、安眠とは真逆のことを考えている劉赫。

 普段公務でもここまで真剣に頭を使うことはないくらい、大真面目に策を練っていた。

(夜の勢いに任せて、急に接吻するのはどうだろう。

……うん、間違いなく平手打ちされるな。

それに、指一本触るようなら自害するとまで言われているしな。

本人がその気になってくれないと何もできない。

ならば……)