その日中、ずっと落ち着かず、ひたすら夜を待っていた劉赫に、ようやく夕餉が届けられた。

 外を見ると、太陽は沈んでいる。

これほど太陽の動きが遅いと思った日はなかったが、劉赫念願の夜が訪れた。

 雪蓉と共に夕餉を食べ終えた劉赫は、食後の茶を飲み干すと開口一番にこう言った。

「さあ、寝るぞ!」

 立ち上がり、意気揚々と宣言した劉赫を雪蓉が見上げる。

「早くない⁉」

 雪蓉が驚くのも無理はない。

なにせ、日が落ちてすぐに夕餉を食べ始め、しかもいつもより倍の速さで食べ終えたのである。

夜になったといえど、空に浮かんでいる星の数は、数個程度だ。

 ちなみにいつもの夕餉の時間は今の時刻より遅い。

作るのも急かされ、食べ終わるのも早い。

劉赫が食べるのがあまりにも早いものだから、雪蓉も慌ててご飯をかき込む。

普通の女性であれば、まず追い付かない速さだが、そこはさすがの雪蓉。

大男ばりの速さで食事を終わらせた。

「何を言っている。俺はいつも寝るのが早い」

「そうだったの?」

 夕餉を終わらせたら、すぐに宸室から出ていたので、劉赫がこれほど早く寝ているとは知らなかった、と雪蓉は思った。

 もちろん、これは嘘である。

劉赫は夕餉を終えたあと、しばらく宸室で政務をこなしてから寝ているので、寝るのはとても遅い。

 しかしそんなことは知らぬ雪蓉。湯浴みを済ましてきて良かった、と安堵した。

「もう寝る準備は万端だ。さあ、来い」

 寝台に腰を下ろし、満面の笑みで、布団をポンポンと軽く叩く。隣に来いという意味だ。

 雪蓉は少し警戒ぎみに近づいた。

「添い寝はちょっと……」

 一緒に寝て、子守歌をうたってあげる、とは言ったものの、よくよく考えれば、ちょっと危険な気もしてきたのだった。

 最初の頃とは違い、最近は二人きりでいてもまったく何もしてこない。

身の危険を感じるような雰囲気になったことすらない。

 だから、安心しきっていたのだが、添い寝はさすがに一線を越えてしまっている気がする。

「じゃあ、どこで寝るんだ。床で寝る気か?」

「私はまったく構わないわ。野宿だろうが木の上だろうが、どこでも寝られるもの」

 雪蓉なら大丈夫だろうなと劉赫は思った。

木の上はさすがに危ないと思うが、やりそうな気もする。

 だが、それとこれとは話が別だ。

寝られる寝られないの話ではないのだ。

 添い寝することを楽しみに一日過ごしてきたのに、同じ部屋とはいえ、別々に寝るのでは味気がない。

正直それでも凄く嬉しいが、人は欲深くなる生き物である。

いったん添い寝ができると思ってしまったら、添い寝じゃないと損した気持ちになる。