「さあ、もう食べ終わったことだし、私は後宮へ戻るわ」

 雪蓉が立ち上がると、劉赫はハッとして顔を上げた。

「……もう、行ってしまうのか?」

 劉赫の切なげに見つめる瞳が物寂しくて、雪蓉の胸はぐっと詰まった。

「ここにいても仕方ないし、もう用は済んだし。それに、あまり長くいると私の身が危険だし」

 弁解するように早口でまくしたてる雪蓉に、劉赫は肩を落とした。

長くいれば触れたい気持ちを自制することが難しくなるのも事実だった。

「……分かった」

 劉赫はまつ毛を伏せ、物憂げに頷いた。

 とても残念に思っていて、我慢をしている様子がありありと伝わってくる。

 雪蓉は自分がとても悪いことをしているような気持ちになってうろたえた。

両親と引き離され、心を閉ざした幼子が、雪蓉にだけ心を開いたにも関わらず、暗い寝屋に置いて出ていかねばならないような、後ろ髪ひかれる思いがする。

 そんな時雪蓉は、幼子が安心するように胸に抱きしめ、朝まで一緒に眠ってあげるのだ。

すると幼子は徐々に明るくなって、雪蓉以外の人にも心を開いていけるようになる。

しかし、それを劉赫にしてしまっては、話がおかしいことになる。

 劉赫の過去を知ってしまっただけに、彼も孤独を抱え、傷付いた心で必死に生きているのだと分かる。

なんとかしてあげたい気持ちは芽生えたが、彼はもう子供ではない。

「私の料理、美味しかった?」

 雪蓉が問うと、劉赫は一瞬ためらうように逡巡してから、コクリと頷いた。

「……ありがとう」

 とても素直にお礼の言葉が劉赫の口から出てきたので、雪蓉は驚いた。

そして、この部屋を出ることが名残惜しくなった。

もっと一緒にいてあげたいという気持ちになった。

 でも、それは自分の役目ではない。