劉赫はわざとらしく大きなため息を吐いて、その女性のことについて教えてくれた。

「恐らく、父帝の皇貴妃、麗影(れいえい)様だと思う。月麗宮(げつれいぐう)に今も住んでいると聞いている」

「どうして先代の皇貴妃様が後宮にいるの? 普通、帝が変われば後宮の妃妾たちは一新するのではないの?」

「住み慣れた土地を離れたくはないとおっしゃられるのでな。麗影様だけでなく、俺の母上も後宮にいるし……。

改めて考えてみるとおかしな話だよな。今まで後宮にまるで興味がなかったからなんとも思わなかったが」

「先代の皇貴妃ってことは、あの方は何歳なのかしら」

「父帝と同年代だから、御年七十四歳じゃないか?」

「嘘! 絶対違う! 人違いよ!」

 雪蓉は大きな声で否定した。腰も曲がってなかったし、髪もたわわで黒かった。

あれで七十四歳というなら、雪蓉の中で常識が破壊する。

「俺もほとんど会ったことがないから分からないのだが、麗影様は心を壊してから時が止まったように老けることがないと聞いている」

「心を壊した?」

 劉赫は言いにくそうに、ほんの少し顔を歪めた。

「ああ。父帝と麗影様は幼馴染で互いに恋をして結ばれたと聞いている。

麗影様の身分も申し分なく、二人の婚姻は誰からも祝福されるものだった。

けれど、麗影様にはお子が生まれなかった。

十年以上連れ添ってきたが、父の立場もあり、新たに妃を後宮へ入れた。

それが俺の母上だ。

年若く輿入れした母上は、すぐに子供をもうけた。

そして父帝の愛情も、麗影様から母上へと移っていった。

嘆き悲しんだ麗影様は、徐々に心を壊していったという話だ」

 麗影様に同情する気持ちは生まれるも、仕方のないことのようにも思える。

 一般の男性ならともかく、相手は皇帝なのだ。