妖女(ようじょ)がいた?」

 雪蓉の道草のせいで、遅い時間に夕餉を食べることになった劉赫は、文句も言わずに料理を食べながら雪蓉の話を聞いていた。

「そうなの。声や雰囲気は妖婆に近いんだけど、顔立ちは艶めいて美人だったから、なおさら不思議で……」

 対面しながら劉赫と共に夕食を食べていた雪蓉は、今しがた起こったことを、まるで怪奇談のように語って聞かせた。

「……うーん」

 劉赫は考え込むように歯切れの悪い返事をした。雪蓉はさらに続ける。

「広大な敷地で立派な建物だったから、身分は相当高いはずなのよ。後宮に興味がないあなたでも、いくらなんでも知ってるでしょ?」

「まあ、思い当たるふしがないといえば嘘になるが……」

「さっきからどうしてそんなに曖昧な返事ばかりなのよ。何か都合の悪いことでも……あっ!」

 雪蓉が、分かったという顔で、しかも少し引いているような表情をしたので、劉赫は眉を(ひそ)めた。

「その顔、俺がその妖女の元に通っていたと思ってるな。

知っているだろうが、俺が後宮に行ったのは一度きりしかない。しかもそのお渡りは、女からの拒絶で終わった」

 言葉にして聞いてみると、劉赫が不憫に思えてくるが、拒絶したのが他でもない雪蓉自身なので口を(つぐ)んだ。

しかも、入室早々、棒で殴りかかろうとしたことは……思い出さないことにする。

「ああいう女性が趣味なのかと思っただけよ」

「その白くて柔らかそうなほっぺた、餅みたいに引っ張ってやろうか?」

 これ以上言うと、本当に頬を摘まれそうなので自粛する。