一品ずつ仙が味見をしていく。

雪蓉は緊張の一瞬だが、小さな女巫たちは気楽なものである。

雪蓉の作る料理はとても美味しいと知っているからだ。

「うん……、まあいいだろう」

 褒められはしなかったが、合格らしいので、雪蓉はほっと安堵(あんど)した。

八年前に、雪蓉の姉代わりだった女巫がお嫁に行ってからというもの、当時十歳だった雪蓉が年長者となり、調理を一手に引き受けることとなった。

数年前から承認をもらえないことはなくなったが、最初の頃は駄目出しばかりで、泣きながら一日中料理をしていたものだ。

厳しい指導に耐えたかいあって、今では誰よりも美味しい料理を作ることができるまでに成長した。

 仙は大皿に盛られた大量の料理に、そっと手をかざす。

すると、(しわ)だらけの手の平から、淡い茜色の光が料理に降り注がれていく。

「いつ見ても綺麗……」

 ほうとため息を吐くように、小さな女巫たちはうっとりとその光を見つめる。

 幼き頃の雪蓉も、仙の術に見惚れたものだ。

だが、今は羨望の眼差しだけを向けるのではなくなっている。

自分もいつかこの術を会得するのだと大志を抱いた目で見つめているのだ。

 無事、仙から承認を得て、料理に術をかけてもらった雪蓉たちは、今度はそれらを抱え山奥へ入っていった。

 家屋から徒歩五分ほどの距離に、饕餮が住む洞窟(どうくつ)がある。

巨大な黒い洞窟の中へと進んでいくと、しめ縄で奥へ進む道が(ふさ)がれている。

しめ縄には厳重な結界が張られており、饕餮は外に出られなくなっているのだ。

 真っ暗な洞窟の奥からは、不気味な低重音が聞こえてくる。

饕餮のいびきの音だ。

饕餮は食事時以外は、めったに起きてこない。

だから、十三年間女巫として毎日この洞窟に通っているが、はっきりと姿を見たことはなかった。

 人間は結界を感じないので、出入りすることは自由だ。

だが、しめ縄の中に入ったが最後、饕餮は匂いを嗅ぎつけ、頭からひと息に食らうだろう。

 手を入れることも怖いので、大きな長い棒で食事をしめ縄の中に押し込む。

全てを入れ終わり、ほっと一息をついた。

「雪姐、早く行こう」

 雪蓉の(そで)を引っ張り、小さな女巫たちは怯えた眼差しで見上げている。