最後に仙が術をかけるとはいっても、調理の出来は術のかかりやすさに比例する。

心のこもった美味しい料理を作れば、少ない量でも満足してくれるが、出来の悪いものだと術が効きにくい。

仙にいわせれば、未熟な雪蓉たちは、大量に料理を作らなければならないとのことだ。

「出来たわ」

 雪蓉は額の汗を布で拭って言った。

「美味しそう」

「さすが雪姐」

 小さな女巫たちは、大量の料理を見ながら、ゴクリとつばを飲み込んだ。

大皿に山盛りに積まれた空芯菜(クウシンサイ)と春野菜の炒め物、大きな豚の皮付きの三枚肉を少し甘めの濃厚な汁で蒸した東坡肉(トンポーロー)に、蝲蛄(ザリガニ)の素揚げやいかの鶏豆花湯(チードゥファタン)など十人前以上はある。

「あなたたちも手伝ってくれたじゃない」

 褒められた雪蓉は、少し照れくさそうに言った。

「そうだけど……」

 雪蓉を除く女巫たちは、まだ小さいのでたいしたことはできない。

早く雪蓉の役に立ちたいと思っているが、料理人としてはまだまだ未熟だ。

「さあ、皆、冷めないうちに料理に術をかけてもらいに行きましょう」

 そう言って雪蓉は大皿に積まれた東坡肉を持ち上げた。

「はい!」

 少女たちの可愛らしい声が厨房に響き渡った。

 仙の住む居宅の玄関の扉を開け、小さな女巫が声を上げる。

「仙婆~、出来たよ~」

 仙婆と呼ばれた偉大なる術師は、奥の間から腰を屈めてのろのろと出てきた。

 綿毛のような白い髪を後ろで一つに結い、顔も手も皺くちゃの老婆だ。

仙が作れば、たった一品でも饕餮が満足する料理になるらしいのだが、高齢なのを理由にしてめったに料理を作ることはない。

いつも腰が痛いだの足が痛いだの言って、ほとんど居宅から出ないのだ。

しかしながら噂では、仙が馬よりも早い速度で山を駆け上がる姿を見ただとか、(ひざ)屈伸(くっしん)百回は余裕だとかいわれているが、真偽は不明である。

「どれどれ……」