さっそく雪蓉は、厨房(ちゅうぼう)を借りて劉赫の食事を作ることになった。

 一応後宮の妃嬪(ひひん)である雪蓉は、外廷の厨房を使うわけにはいかない。

たくさんの男たちがいる中で、何かあってからでは遅いのだ。

 そういうわけだから、雪蓉は後宮内にある一番大きな厨房を使わせてもらうことになった。

饗宮房(きょうぐうぼう)と呼ばれるそこは、後宮の女官や妃嬪の食事を作る役割を担っている。

宮を与えられるような身分の高い妃は、自身の宮の中に厨房があり、いつでも好きなものを食べられるようになっているが、女官や下級位の妃は、饗宮房で作られる食事しか食べられない。

 劉赫は、後宮に妃を迎えることを好まず、高位の官吏らにどうしてもと押し切られて入れた妃しかいないため、人は少ない方だ。

それでも数百人の食事を一挙にまかなっている場所とあって、厨房の大きさもさることながら、料理人の数も多い。

 饗宮房に案内された雪蓉は、食材の豊富さや調理道具の種類の多さに驚いた。

(凄い、ここなら何でも作れそうね)

 雪蓉は胸がわくわくしてきて、厨房を見渡しながら口元が(ほころ)んでいた。

 以前、劉赫に作った時は、残り物で簡単に済ませた。

そもそも、まさか皇帝だったなんて知らなかったし、酷い怪我と熱でうなされていたから、胃に負担にならないものを作った。

それでも喜んでいたし、簡単なもので劉赫は満足するのかもしれないけれど、皇帝に献上(けんじょう)する料理を作るのであれば、気合を入れたい。

 毎日饕餮に食事を(きょう)していた、女巫の血が騒ぐ。

誰かのために心を尽くして料理を作ることは、雪蓉の喜びだった。

(それに、ずっと味が分からなかったなんてかわいそう。食は生きる楽しみで、励みにもなるのに)