(ひたい)を手で押さえ、呆れ果てる雪蓉に、内侍監も同じく困ったように頷いた。

「それが私も不思議でね。劉赫様は元々、食に対して無頓着なお方なのだよ。

必要最低限の量しか食べないし、効能や栄養は気にされても、味は一切関心がない。

というのも、ある時から劉赫様は、味を感じることができない体質になってしまったからね」

「味を感じることができない?」

「そう、何を食べても味覚がしないらしい。だから、これほどまで食に執着することが我々にとっては驚きなのだよ」

 これまで理解できなかったことが、妙にストンと()に落ちた。

『味がする……』

 と言って無我夢中で雪蓉の料理を食べていた劉赫の姿を思い出した。

 やけに回りくどい褒め言葉ね、と思っていたが、これまで味覚を感じることができなかったのなら、そういう言い方になるだろう。

 それに、雪蓉を後宮へと連れてきた理由。

 彼は、『お前の料理が食べたかったからだ』と言った。

味を感じることができない彼にとって、雪蓉の料理は特別。

もう一度食べたかったという言葉に偽りはないのだろう。

 だが、雪蓉が『それなら宮廷料理人でいいじゃない!』と言った後に彼が漏らした言葉を思い出して、顔が青くなる。

(あんっの、変態野郎。女には興味ないみたいな顔しながら、手が早いなんて本当たちが悪い)

 うっかり気を許すと唇を奪ってくるんだから気を抜けない。

 そこは、今後要警戒ということで置いておくとして、雪蓉の料理がどうしても食べたいという気持ちは分かった。

雪蓉でなければいけないということも。

 だからといって、拉致して後宮入りさせたことを許すわけではないが、料理くらい作ってあげてもいいかと思う。

それに、せっかく助けたのに、雪蓉のせいで死なれたら気分が悪いではないか。

 そうだ、これはまたとない好機だ。

交渉(こうしょう)余地(よち)はある。

「……分かりました。作りましょう。ただし、条件があります」