「実は折り入って頼みがあるんだ。

逃げ出そうと毎日頑張っているという噂は聞いているから、そんな君に頼むのは(こく)だということも分かっている。

だが、これは劉赫様の命に関わることなんだ」

「命……?」

 皇帝の命に関わるとは、物騒(ぶっそう)な話だ。

内侍監の困り果てた顔から察するに、危急(ききゅう)(ともな)うことらしい。

「実は、三日ほど前から劉赫様は食事を召し上がっていない。飲み物も口に入れないから、衰弱(すいじゃく)してきている。

このままではいつ倒れても不思議ではない」

「なんだってそんな……」

 言いかけて、ふと思い出した。

『俺は、例え死のうとも、お前が作った料理しか口にしない!』

 突然の、謎の宣言。

 正直、今まで忘れていた。

まさか本当に断食しているとは。

一体どうして、何のために。まったく意味が分からない。

「劉赫様は、君の作った料理しか食べないとおっしゃっている。

我々も最初は単なる我儘(わがまま)かと思って大して気に留めていなかっただが、ここにきてどうやら本気だと分かった」

「まさか……」

 嫌な予感がする。

「劉赫様は意思が強い。自ら決めたことは何がなんでも守り通す。それが、自ら死を選ぶことだとしても」

「いや、でも……」

「こんな馬鹿げたことで、皇帝を失うことになっては困るのだよ。君の作った料理しか食べないとおっしゃるのなら、君が作ればいい」

 そう言われるとは思ったけれど、無理やり拉致して後宮に軟禁させた張本人が劉赫である。

奴が死のうが死ぬまいがどうでもいい……とは言えない。

なにしろ彼は、舜殷国皇帝なのである。

皇帝に死なれたら困るのは、舜殷国の国民全ての共通の思いだ。

もちろん、雪蓉も。

「なんでそんなことをするのよ……」