明豪の後ろを歩きながら渾寧門(こんねいもん)をくぐり回廊(かいろう)を渡る。

御花園(ぎょかえん)と呼ばれる庭園を眺めながら進んでいくと、大きな太湖石(たいこせき)で作られた築山がいたるところに飾られている。

花よりも樹木や奇石が主役のようだ。

 内廷は(ほり)に囲まれ、水路と橋が入り組んでいた。

敵の侵入を防ぐためにであろうが、脱出も困難そうだ。

 諦めの悪い雪蓉は、途中何度か逃げ出せないか機会を窺うが、駆け出そうと拳を握っただけで、明豪が後ろを振り向き、鋭利な眼差しを刺す。

 その度に雪蓉は、にこりと微笑み、あらやだ逃げ出そうとなんてしてませんわよ、といった表情を見せる。

 気配だけで察するんだから、明豪という男、さすがは皇帝勅任の護衛である。

逃げ出すなんて無理である。

「着いたぞ」

 ぶっきら棒に明豪は言うと、精巧(せいこう)な竹の文様を模した扉を開ける。

 中に入ると、そこは執務室のようだった。

室の最奥に置かれた紫檀(したん)の長椅子に、ゆったりと座る人物は、書類から目をそらし、雪蓉に視線を動かした。

 白髪交じりの髪を後ろで束ね、文官の礼服を着た男は、雪蓉に柔和(にゅうわ)な微笑みを投げた。

 雪蓉は慌てて、拱手(きょうしゅ)の礼をする。

恐らくこの人物が、内侍監なのだろう。

威張った様子はないが、(ただよ)う風格は隠せない。

「すまないね、急に来てもらっちゃって」

「いえ……」

 ちらりと扉を見ると、しっかりと明豪が側で控えている。

逃がす気は一抹(いちまつ)もないらしい。