悶々(もんもん)と後宮内からの脱出計画を考えていたところに、まさかの申し出である。断る理由がない。

 女官の後ろに続き、雪蓉はあっさりと後宮から出られた。

 しかし、後宮の大門をくぐると、大勢の武官が待機していた。

簡単には脱出させてはもらえないようだ。

だが、それも計算の内。

(機を見て、かいくぐってみせるわ!)

 闘志に燃える雪蓉だったが、一人の男の登場によって、希望が消える。

「ここからは、俺が案内する」

 回廊(かいろう)悠然(ゆうぜん)と歩き、こちらにやってきた武官の衣装を着た男は、そう言って雪蓉を一瞥(いちべつ)した。

 これまで見てきた武官とは雰囲気がまるで違っていた。

幅広(はばひろ)の剣を身につけ、将官の(あかし)である龍の紋章が刻まれた武具をまとい、皇帝に近しい者だけが使うことが許されている貴色の紫糸が胸に刺繍(ししゅう)されている。

 このことが何を表すかというと、彼は皇帝の護衛(ごえい)の勅任武官ということだ。

しかも禁軍(きんぐん)(たば)ねる最高指揮官。

 歳は、二十代前半で劉赫と同い年くらいだ。

精悍(せいかん)な顔つきながら、野性的な雰囲気を漂わせている。

 鋭い眼差しを向けられ、雪蓉は固まった。

武官が何人いても、かいくぐる自信があったが、この男の目を(あざむ)くことはできないと本能が通告する。

 雪蓉を見ていなくても、気配で動きを察することなどお手のものだろう。

明豪(めいごう)だ。逃げようなんて思うなよ。手荒なまねはしたくない」

 しっかりと釘を打たれ、雪蓉は項垂(うなだ)れた。

(後宮から脱出する方が簡単に思えてきた……)

 とんでもない人物を出してきた。

明豪の登場によって、雪蓉の希望は根こそぎ奪われた。