初日こそ、雪蓉を室に閉じ込めておこうと必死だった女官たちだが、尾ひれがついた噂話のおかげで、雪蓉を抑え込むのは危険と判断し、雪蓉を野放しにすることにした。

雪蓉が逃げてくれた方が彼女たちにとっては好都合なのだ。

それで皇帝から叱られても、厳しい罰は受けないだろうという思惑である。

 皇帝が冷酷無比であれば万死に値する行為だが、劉赫はそんなことをしないと彼女たちは分かっていたからこそできた行動だ。

 自由を得た雪蓉は、意気揚々と後宮内を探索する。

もちろん、逃げ道を見つけるためだ。

しかしながら、警備は厳重だった。

さすがは武力に誇る舜殷国。

何度か脱出を試みるも、あえなく捕まり後宮に戻される。

 しかも、脱出を図る回数が増すごとに、武官は要領を得て、逃げ出すことがどんどん難しくなっていく。

やみくもに脱出することは自分の首を絞めるだけだと学んだ雪蓉は、もっと計画を練り、ここぞという時を決めて実行することにした。

 室にこもり、脱出の計画を考えていたところ、思わぬ呼び出しを受けた。

内侍監(ないしかん)がお呼びです。至急、清内宮(しんないぐう)にお越しください」

 無表情の女官が、雪蓉に告げる。

雪蓉を見ても、恐れも不快感も顔に出さない。

一切の感情を捨ててきたかのように、ただ無機質に告げる。

 内侍監といえば、内侍省の長官のことだ。

後宮は内侍省の管轄なので、いわゆる後宮の最高責任者。

(清内宮は、後宮外にある。ってことは、後宮を出られるってこと⁉)