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これほど美しいのなら、後宮の妃にご所望されても致し方ないと、家臣たちから受け入れられた雪蓉だったが、後宮内では別だった。

なにせここは、嫉妬と欲望渦巻く女の園である。

 どれほど美しくても、身分の低い女は虐げられる。

しかも、突然、正一品の貴妃である。

身よりのない女巫ふぜいが、皇帝からの寵を受ければ反感は必死。

皇帝に知られては自らの身が危険なので、表だって嫌がらせされないにしても、裏では相当酷い虐めを受ける……はずだった。

 武官が数人がかりでも取り押さえるのに苦労した話や、扉を破壊した話。伝言された話は尾ひれがついて膨らんでいく。

 雪蓉は、霊獣の化身だとか、片手で鉄を折り曲げるだとか、さすがにそれはあり得ないだろという話でさえも広がり、後宮内は恐怖に包まれた。

 そんな恐ろしい人物相手に嫌がらせできる豪胆な者はおらず、雪蓉を見ると、皆が逃げ出し誰も近寄る者がいないという、雪蓉にとってはとてもありがたい状況が作られた。

 雪蓉の身支度を整える者も、湯屋で手伝いをする者もいない。

高貴な身分の女性なら、女官たちの態度は無礼極まりない、相当な嫌がらせとして受け止めるが、雪蓉にいたってはどうぞご勝手にという姿勢は、快適そのものだった。

(あらやだ、案外居心地がいい……じゃなあい! 私は絶対、ここを抜け出して帰るのよ!)

 後宮入りして三日目。

雪蓉は懲りずに、後宮脱出の機会を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた。