「相変わらず凄いね」

「雪姐が大人しくさえしていれば、豪族に嫁げるくらいの美人なのに」

「無理だよ、この前も雪姐を見て一目惚れした村の若頭が口説きに来たけど、鍬で追い払ってたもん」

 年頃は七、八歳である小さな女巫たちは、妙齢(みょうれい)である雪蓉の嫁ぎ先を心配して、大きなため息を吐いた。

女巫とはいっても、一生女巫であり続けなければいけない縛りはない。

年頃になれば結婚し、この土地を去るのが一般的だ。

しかしながら、村一番の美人である雪蓉が最も結婚が難しいと彼女たちは(うれ)いている。

子供に心配されているくらいだから、本人はさぞや気を()んでいるだろうと思いきや、雪蓉は実にあっけらかんとしていた。

「私、結婚する気なんて毛頭(もうとう)ないわ!」というのが彼女の口癖で、一生独身を貫く覚悟を決めている。

 雪蓉は貧しい農村の一家に生まれた。疫病(えきびょう)で母を亡くし、男手一つで幼い雪蓉を育てていくことは困難だった。

このままでは父子共々餓死すると、雪蓉の身を案じた父は、山奥の四凶(しきょう)の地の一つ饕餮山(とうてつざん)と呼ばれる一世帯しかいない集落に雪蓉を残し、山を下りた。

 そこは別名〈子捨て山〉と呼ばれる、四凶の饕餮(とうてつ)(しず)める(せん)の住む聖域だった。

四凶とは、饕餮(とうてつ)窮奇(きゅうき)驩兜(とうこつ)混沌(こんとん)と呼ばれる四つの霊獣(れいじゅう)のことである。

各々が山に住み、彼らを鎮める仙と女巫が存在する。

饕餮山に捨てられた子供は、饕餮を鎮める仙の手伝いをする女巫となる。

饕餮という恐ろしい霊獣の側で生活することになるが、衣食住は確保され、とりあえず死ぬことはない。

この土地が嫌ならいつだって出て行っていい。ただ、親から捨てられた子供に行き先などない。

山頂に住んでいるとはいっても、食料や生活用品を買うために、(ふもと)の村に行くことがある。

そこで出会った村人と恋仲となり、結婚して出て行くことが彼女たちの最大の目標だ。

だから、子供とはいっても結婚の話題には敏感なのである。

「おまたせ! さあ、帰りましょう」