「聞いてた? 人の話聞いてた⁉ ていうか、自信満々にそんな気持ち悪いこと、よく平気で言えるわね!」

「そういうことだから……諦めろ」

 劉赫は艶笑(えんしょう)を浮かべ、雪蓉の肩に手を置いた。

 雪蓉は怒りで肩が震え出し、拳を握りしめ劉赫の顔面目がけて振り上げた。

しかし、劉赫は慣れた様子でひらりとかわす。

「この前は不意打ちだったから避けられなかったが、もうお前の気性の荒さは知っている。そうそうあの二の舞は踏まないぞ」

 この前とは、雪蓉の唇を奪い、頬に平手打ちをくらった夜のことを指している。

あの時のことを思いだし、雪蓉の怒りはさらに燃え上がる。

「どうして私なの⁉ あんたなら女に困ることなんてないでしょう!」

「そ……れは……」

 思わぬ問いに、劉赫はうろたえる。

 雪蓉の言う通り、人生の中で女に困ったことなどない。

整った容姿に加え、彼は皇帝である。

後宮に各地から集められた美女が、皇帝の訪れを待っている。

 だからこそ、興味がなくなる。

求められれば逃げたくなる、逃げられれば追いたくなるのは、男の性か。

 では、雪蓉が彼の寵愛を望んだら、興味が失せるのか。

答えは、否だ。

 雪蓉が劉赫を求めてくれたら、劉赫も喜んで気持ちを返そう。

ならば、この気持ちは……。

雪蓉じゃないといけない、雪蓉しかいらない、この気持ちは……。

「……お前の料理が、食べたかったからだ」

 劉赫は目線を斜め上へと泳がせた。

「は?」

 予想もしていない、とんでもない方向から玉が投げられたかのように、雪蓉は劉赫の言葉を受け取ることができない。

「お前の料理には味がする。だから、もう一度食べたかった」

 ここで、お前の料理が美味いから、と言わないところが素直じゃない。