さらに扉は木板で至急塞いだのか、不自然な修理箇所があった。

「これは雪蓉が?」

 劉赫の問いに、皆が気まずそうに視線を泳がせた。

「訊ねるまでもないことだったな」

 案内役の采女は、中にいる人物がよほど怖いのか震える手で扉を開けようとするが、張りぼての扉はなかなか開かない。

「俺が開ける。ここからは皆、下がっておれ」

 采女は安心した顔を浮かべ、音も立てず素早い所作で下がった。

そして女官たちも命拾いしたような表情で、あっという間にいなくなった。

 室の前で一人佇む劉赫は、俺は本当にどこに来たのかと心内で苦笑した。

 まるで極悪人の罪人のいる牢獄の中に入るか、はたまた猛獣のいる檻に入るようなありさまである。

(俺の嫁は、なかなかの曲者のようだ)

 劉赫は自然と笑みを浮かべていた。

 木板を外し、扉を開ける。

本来ならば侍女を通して室に入るのが習わしだが、なにせ色々と慣例崩しの後宮入りだ。

本人の承諾も得ずに室に入ることに、若干後ろめたい気持ちが生まれたが、すぐに消える。

「俺だ、劉赫だ。……入るぞ」

 一応、断りを入れて中へと進む。

室の中は整然としていて、綺麗に保たれている。

しかし、見回しても、肝心のいるはずの人物の姿がない。

(まさか……逃げられたか)