向かうはもちろん、貴妃雪蓉の元。

(はや)る気持ちを抑えて室に行くと、大勢の女官たちが室を囲むように待機していた。

額には白いはちまき、長い槍を持って立っている。これから戦争にでも行くのかという恰好だ。

「どうした、何事だ」

 皇帝のお出ましに、皆は驚き一様に膝まづく。

案内役の采女(うぬめ)が気まずそうに口を開いた。

「貴妃様が逃げ出さないように、皆見張っていたのですわ」

「あいつはまだ諦めていないのか。しぶといな」

 感心するように劉赫が言うと、女官の一人が頭を上げ、縋るように口上した。

「ああ陛下、申し訳ございません。本来ならば、夜伽(よとぎ)の準備をいたさなければならないところ、なにぶん皆、近寄るのが怖ろしくて、用意がまったくできていないのです。ですがせめて、逃亡は防ぎたく尽力致しておりました」

「雪蓉は中におるのだな?」

「はい、それは確かに!」

「ならば良い。皆、慣れぬことを頑張ってくれて礼を申すぞ」

「ありがたきお言葉」

 女官たちは涙を拭う。

妃の室に訪れたという甘い事実とは真逆の光景に、劉赫は、はて、俺は何をしに来たのかなと思考が一瞬迷子になる。