簡素な身なりで化粧気のない素肌でも目を引く美しさだったが、煌びやかな衣装に身を包み、薄く化粧を施したその姿は、誰もが文句のつけようもないほど佳麗だった。

 彼女を見てしまったら、どんな美女も物足りなくなってしまうだろう。

 金襴(きんらん)龍袍(りゅうほう)を身に纏い、前後二十四(りゅう)冕冠(べんかん)を被った若く美丈夫な君主と並ぶと、まるで一枚の絵を見ているような不思議な感覚になる。

 こうして雪蓉は、無事に後宮の貴妃として迎い入れられた。身分がなくても美しさで他を黙らせる、前例のない美妃であった。

本人にとっては嬉しくもなんともない話である。

なんなら「後宮から出て行け!」と言われたら、「喜んで!」と嬉々として去りたいところだが、どうも雲行きは怪しいようだ。
 
「絶っ対、脱出してやる!」

 やたら豪奢な(へや)に軟禁された雪蓉は、拳を握りしめ決意も新たに気合を入れる。

 紅色で彩られた壁や柱は、花鳥をあしらった緻密な装飾が施され、銘木の花梨(かりん)が使われている。

床には毛氈(もうせん)が敷かれ、黒檀の卓子には硝子(ガラス)の水差しや、彩りのいい砂糖菓子を乗せた銀盆が置かれていた。

 室は無駄に広いし、至れり尽くせり、最高の住まいを提供されたが、豪華な暮らしに喜ぶような性格ではない。

 侘しいが、子供たちの笑い声で満たされていた、あの古ぼけた家屋に帰りたい。

(否、帰るのよ!)