さらに前例のないこととして、皇帝自らが求婚に行き、断られ無理やり捕獲。

しかも、その後がもっとも酷かった。

 舜殷国選りすぐりの屈強な武官を集めて出立したにも関わらず、女一人を抑えるのに多くの武官が犠牲となったのだ。

犠牲とはいっても幸い死者は出ていない。

しかしながら兵の消耗は激しく、皇居に着くなりバタバタと倒れる者が続出した。

 見目麗しい天女のような女は俊足、そして怪力で、獰猛(もうじゅう)な獣と対峙(たいじ)しているようだったと、後に倒れた武官たちは語った。

 求婚した美女が、まさかの怪力女だったと知った劉赫は、百年の恋も冷めるであろうと思われたが、予想に反して「さすが俺の嫁」と満足気に微笑んだという。

 後宮のみならず宮廷からも目の上のたんこぶとされ、貴妃など認めないと心の内で激しく抵抗する人々は、その話を聞いて後宮に入れることすら反対し出した。

しかし、到着早々開催された雪蓉のお披露目の儀式で、家臣たちの見る目は一気に変わる。

 皇后の冊立(さくりつ)の儀式も行われる江奉殿(こうほうでん)で、簡易な祝賀の儀式が行われた。

 大きくはない建物だが、外朝の太湖殿(たいこでん)と同様、複雑で装飾的な藻井(そうせい)を用いた天井が鮮やかに際立っている。

江奉殿の中央にある玉座に、冕服(べんぷく)に着替えた劉赫が座り、雪蓉を迎え入れた。

 華麗な上襦下裙(じょうじゅかくん)に身を包んだ雪蓉は、この世のものとは思えぬ美しさで、長く豊かな濃紫色を帯びた黒髪を芍薬(しゃくやく)の生花と揺れる簪で飾り、ひと房編んだ髪は頭頂で双鬟(そうかん)を結い上げている。

薄桃色に色取られた薄織りの披帛(ひはく)を肩にかけ、上衣の襦は鮮やかな緋色で、金糸で花鳥が描かれている。

下裳は光沢のある生成りの乳白色で、裳裾(もすそ)が柔らかに広がっていた。