「じゃあ、何しに?」

 訝る雪蓉に、劉赫は不敵に微笑む。

(俺が皇帝だって分かっても、口調も態度も改めないとは……)

 呆れるような、それでこそ雪蓉だと喜ぶような、不思議な満足感に包まれる。

「あっ! お礼しに来てくれたの?」

 雪蓉の顔がぱっと華やぐ。

「お礼……そうだな。最高の幸せをお前に与えに来た」

 なんだろうと思いつつ、なぜか嫌な胸の予感がする。

 雪蓉は自然と身構えた。

「お前を後宮の妃に召し上げる」

「……は?」

 驚いたのは雪蓉だけではない。

そっと成り行きを見守っていた小さな女巫たちや仙でさえも言葉を失った。

「俺と結婚するんだ、雪蓉」

 勝ち誇った劉赫の笑みに、冗談ではなく本気で言っているのだと悟る。

 一瞬、泡を吹いて倒れそうだったが、慌てて気を確かに(たも)つ。

ここで倒れたら、起きたら後宮の妃にされていそうだ。

「死んでもお断りよ!」

 雪蓉はもう一度皇帝の頬に平手打ちをかましそうな勢いで言った。

「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 駿馬に跨り、雪蓉を見下ろしながら劉赫が目を細めて言った。

淡々とした口調だが、明らかに怒っている。

「ええ、十分理解しているわよ。聞こえなかった? もう一回言ってあげる。

あんたの妃になんか、死んでもならない! 殺すなら殺しなさいよ、変態下衆野郎!」

 雪蓉の暴言に、武官たちがざわつく。

皇帝にこのような口をきいたら、首を即刎ねるのがしきたりだ。

だが劉赫は、怒る武官たちを冷静に静め、やけに慣れた様子で雪蓉の暴言を聞き流す。