男がやけに真面目な顔になったので、何を言い出すかと気構えていた雪蓉は、大きな口を開けて笑った。

「アハハハ、後宮の妃? 何馬鹿なこと言ってるの? 頭おかしいんじゃないの?

ああ、ごめん、おかしいんだった、冗談にならないわ」

 雪蓉は笑いながら自分に突っ込む。

男は一瞬むっとしたが、すぐに気持ちを切り替えて立ち上がった。

 急に近付いてきた男に、雪蓉の顔色が変わった。

雰囲気が変わり、妙な圧力を感じたのかもしれない。

上背がある男は、雪蓉よりも頭一つ分大きい。

急に感じる男の部分に、雪蓉はたじろいでいた。

「お前は美しい。そして、純真だ。もっと、女としての幸せを考えたらどうだ?」

 甘い言葉で男は囁く。そして、雪蓉の瞳を見つめ、白い頬に指を這わす。

 絡み合った目線に、時が一瞬止まった。

「……あのね。仙になりたいなんて言う女が、世間一般の女たちが憧れることに興味あると思う?

美味しいものなら自分で作るし、華麗な衣装だって動きにくくて邪魔なだけ。

寵愛を得ることに躍起になる人生なんて息苦しいだけよ。

男に頼らずとも、私は生きていける。

だから、結婚なんてしないの」