「いいから答えろ」

 礼は何がいいかそれとなく聞こうと思っていたが、口から出たのは直球だった。

だが、雪蓉はその問いが、礼のためであることに気が付かなかったようだ。

「そうね、私の望みはただ一つよ。

食を極め仙となり、この地を守る。

身よりのない子供たちを預かって、心と体を癒し、生きる術を教えて自立を見届ける。

私は死ぬまでこの土地を離れない。だから結婚もしない」

 予想しなかった答えに、男は言葉を失う。

(……仙に、なりたいだと?)

「仙は駄目だ!」

 勢いよく否定され、雪蓉は驚いた。

「なんでよ!」

「なんでって……。それは言えないが……」

 仙の秘密は、代々皇籍や身分の高い一部の者のみが知る門外不出の理。うかうかと漏らすことはできない。

「私は仙になるの。それが夢であり、目標。

仙の術は、その道を極めれば得ることができるというわ。

仙婆のように、強い力はないけど、私の作った料理には、ほんの少し不思議な力が宿っているの。

きっと、毎日饕餮のために料理を作って、仙婆の力を見ているからだわ。

ここで修業を積めば、いつか必ず」

 雪蓉は、仙になることは夢であり、目標だと語った。

仙になるなんて、本来は荒唐無稽の話だが、彼女には密かな自信と手応えがあるのだろう。

 思い返してみれば、雪蓉の作った料理には、味がした。

ある時から、味がまったく分からなくなったのに、彼女の料理は美味いと感じた。

 男は、雪蓉の自信があながちうぬ惚れではないかもしれないと思い、背筋が凍った。

「仙にならずとも幸せになる方法を知っている」

「は?」

 男は、真っ直ぐに雪蓉を見つめた。

「後宮の妃となれば、美味いものは食べ放題で贅沢し放題。

皇帝からの寵を得られれば、いくら低い身分であろうとも誰も歯向かえず、立場は安泰。

どうだ、悪い話ではないだろう?」