日が沈み、漆黒の闇と静けさが辺りを包み込んだ。

 小屋に明かりはなく、暗闇に覆われていたが、男は闇黒の中でも目が見えるので不便さを感じることはなかった。

「ごめんね、遅れちゃって」

 いつものように足で扉を開けて入ってきた雪蓉は、息を切らしていた。

急いで来てくれたことが申し訳なくもあり、彼女に会えたことが嬉しくもあった。

 雪蓉は大きなお盆を片手で器用に支え、もう片方の手には紅提灯を持っていた。

雪蓉は提灯を大きく左右に振り、明かりに照らされた男の姿を見つけ、「いた、いた」と言った。

夕飯、というよりも、もはや夜食の時分だが、文句も言わずに与えられた食事を食べる。

皿にこんもりと盛られたのは焼飯だった。

胡麻油とにんにくと葱の香ばしい匂いがする。

一口食べると、青菜がシャキシャキと歯ごたえを残していて、予想通り最高に美味かった。

「余りもので作ったの。子供たちを寝かしつけてから作ったから、時間もなかったし、大したもの食べさせてあげられなくて悪いわね」

 夢中になって焼飯を食べていた男は、珍しく詫びを言う雪蓉に驚いて顔を上げた。

 どうやら、朝の一件で、頭がおかしくなっていると勘違いしている雪蓉は、男を見る目が少し変わったらしい。

恐らく、不憫とか気の毒だとか思っているのだろう。

同情されてもいい気持ちはしない。

憐憫(れんびん)の眼差しに、俺はまともだ、と男は心の中で返した。

 あっという間に平らげた男は、皿を置いてひと息ついた。

雪蓉の作る料理は、男が今まで食べてきた料理の中で群を抜く美味さだ。

もうすぐ食べられなくなると思うと、物悲しさが胸に染み入る。

 味が分からない(・・・・・・・)男にとって、食事はただの動作だった。

ただ腹は減るから口に入れる。愉しみや喜びを感じたことなどなかった。

「雪蓉、お前の望みはなんだ」

「何よ、急に」