「もしかして、甘いの苦手だった?」

 男は勢いよく首を横に振る。

「え……それなら……あ、分かった! 美味しすぎて感動して言葉が出ないのね!」

 女の指摘は当たっていた。男は世の中にこんなに美味い食べ物があったのかと衝撃を受けていたのだ。

「あんたって甘えん坊だったのね」

 不愉快極まりないことを言われたので、男は怪訝な顔で女を睨み付ける。

「……甘えん坊? もしかして甘党って言いたかったのか?」

「ああ、そうそう、それ!」

「二度と間違えるな」

 正直本気で怒っている男に対して、女は全く気にする様子もなく話題を変えた。

「そういえば、長袍と下衣を持ってきたんだったわ。

仙婆が着なくなったものを継ぎはぎして作ったものだから見た目はアレだけど……。

今のボロボロの衣よりはまだいいでしょ」

 見た目はひどいものだ。

布の色がおかしなところで変わっているし、そもそも布生地も違う。

これはお洒落です、と言い張るには明らかな無理がある。

だが確かに、今の血がべっとりと固まった服よりはましだ。

「ちょっと、こっそりため息つくのやめてくれる⁉ 見えてるから!」

「着替えるから、一旦外に出るか、後ろを見ていてくれないか。俺の裸が見たいというなら止めないが」

「ため息の件、思いっきり無視したわね。まあいいわ。あんたの裸なんか見たくもないから外に出てる」

 女が外に出るのを確認し、服を着替える。

元は女物の衣を無理やり男が着られるように作ったので、色々と残念な部分はあるが、目を瞑ることにする。

 生まれて初めて袖を通す安価な布の肌触りに、新鮮な驚きを感じる。

見た目はみすぼらしいが、女が男のために作ってくれたと思うと、妙に胸の奥がくすぐったくなるのはなぜだろう。

(まあ、悪くはないか)と独り言つ。