「だって、他の妃のところにはいかないでしょう?」

 雪蓉が劉赫のことを全面的に信じていることがわかり、劉赫は満更でもなかった。

「まあ、当然な」

「でも、後宮で働いている人たちはどうなるの?」

「後宮で働いていたという肩書があれば引く手あまただろう。

それに、残った妃たちは、永遠に来ない訪れを待つより、帰って新しい嫁ぎ先で幸せを見つけた方がいいだろう」

「そうか、それもそうね」

 納得した雪蓉は、天蓋に覆われた豪奢な寝台を見つめていた。

その整った横顔を見ながら、劉赫は雪蓉がなにを考えているのか気になった。

 これから共にする寝所。

劉赫の心の中は、豪奢な寝台を見るとつい、いやらしいことを考えてしまう。

小躍りしたくなるような高揚感と緊張で目を逸らしたくなる。

やましい気持ちを隠すためだ。

 しかし、雪蓉は無表情だ。

緊張しているわけでも、豪華な部屋に喜んでいる様子もない。

わかっているのだろうかと心配になるほど。

 実はこの時の雪蓉は、本当になにも考えていなかった。

 宮廷料理人と一緒に仕事をするようになって、雪蓉はくたくたに疲れていた。

彼らは職人肌で矜持人一倍強いので、皇后である雪蓉にも容赦がなかった。

 もちろん雪蓉はそのことに関して、不満に思うどころか感謝している。

下働き上等だし、いくらでもこき使ってくださいと思っている。

 学ぶことや、やることが多すぎて寝不足だった。

 無表情で遠くを見つめ憂いを帯びた表情は、実はあくびを押し殺しているだけだった。

顔が整っていると、少し寡黙になっただけで哀愁がただよう雰囲気になるのだから羨ましい。