「また……嫌な冗談を」

 むしろ冗談であってほしい。

そんなことあってはいけない。

「冗談なんかじゃない。全部捨ててきた。お前に会うために」

「ちょっと待っ……」

 気づくと、手を伸ばせば届く距離に劉赫は来ていた。

「権力も、地位もお金も、全部いらない。俺が欲しいのはお前だけだ」

 真剣な表情で雪蓉を見つめる劉赫。

「だから、ちょっと待って……」

 直視できなくて、これ以上近付いてこられたら、心臓が破裂してしまう。

「待たない。もう待てない」

 さらに一歩近づく劉赫。

雪蓉の声は小さくなり、すっかり萎縮してしまっている。

「捨てていいものじゃないでしょう。あんたは国をなんだと思っているのよ」

「俺にとって一番大事なのは雪蓉だから。雪蓉がいない世界なんて死んだ方がましだ」

「だからって……。駄目よ、困るわ」

 二人の間は、もう拳ひとつ分の距離しかない。

少しでも動けば、触れてしまう距離。

「困るなら、俺の隣にいろよ」