あれとは、皇帝である劉赫のことだ。

雪蓉は口の端を引きつらせた。

「もう無理でしょう」

「あれなら喜んで迎え入れると思うがな。

お前の性格を知っていて、それでも好いていてくれるのは、あれくらいしかおらぬぞ」

 雪蓉は唸った。正直、迷う。

劉赫を好きな気持ちは変わらない。でも……。

「やっぱり無理。だって劉赫は皇帝だもの。妃にはなれない」

 礼儀作法を学び、綺麗な衣装を着て、穏やかに笑みを浮かべながら過ごすなど、雪蓉にとっては拷問だ。

人には得手不得手というものがある。

妃は間違いなく、雪蓉には向いていない。

「劉赫が皇帝ではなかったらどうなるのじゃ?」

「それは……」

 彼の元に行きたい。

彼と一緒に過ごしたい。

でも、劉赫は皇帝だ、もしもなどない。

 目を伏せ、暗くなった雪蓉に仙は静かに声を掛けた。

「考えるだけ、無駄じゃな」

 そう、考えるだけ無駄。

劉赫は皇帝で、劉赫と結婚するということは、後宮の妃になるということだ。

そして、それができない自分は、そこまで劉赫のことを好きではないのだろう。

 雪蓉は考えを振り払うように首を振り、笑顔で顔を上げた。

「……ということで、仙婆、これからもお世話になります」

 雪蓉は深々と頭を下げた。仙は、まあそうなるかと半ば諦めたような顔を浮かべた。

「しっかり働いてもらうぞ」

「喜んで!」

 こうして、雪蓉は気持ちを新たに女巫として働き始めた。 

雪蓉のことを心配していた小さな女巫たちも、雪蓉はずっと女巫であり続けるのだろうと受け入れた。

当然、雪蓉もそう思っていた。