女は桶に入った水で布を濡らすと、それでぞんざいに男の顔を拭き出した。

「おいっ! 何するんだ! 痛い、痛いっ!」

「ちょっとくらい我慢しなさいよ! 真っ黒に汚れた顔を拭いてあげてるのよ!」

「それにしたって、もっと拭き方ってものがあるだろ。床にこびりついた汚れを落とすように力強く拭くやつがあるか!」

「うるさいわね! こっちは感謝されても、文句言われる筋合いはないわよ!」

「いい、痛い! いいから、自分で拭く!」

 布を取り上げて、男は顔を拭いた。

(前言撤回だ、悪い気しかしない)

 顔を拭き終えた男を見て、女は驚いた顔を見せた。

「あんた……汚れてて気づかなかったけど、整った顔しているのね。特に蒼玉色のその瞳、とっても綺麗……」

 女は感嘆するように、男の顔をじっくり見つめた。

男は気恥ずかしくて、ふいと顔を背ける。

「俺は自分の顔が嫌いだ」

「どうして、こんなに整っているのに」

「嫌いなものは、嫌いなんだ」

 男は投げやりに答える。

自分の顔なんて、見たくもないからだ。