「……これが、美味い味というものなのか」

 男が感心したように丼を見つめ呟くと、女は呆れたような声を出した。

「ずいぶん遠回しな褒め方ね」

 無我夢中で食べる男を見て、女はまんざらでもない顔をして微笑む。

「昨日は起き上がれなかったのに、今日は自力で起き上がれるのね。本当凄い回復力」

 女のひとり言のような言葉にはあえて反応せず、あっという間に平らげて、丼をお盆に戻す。

「ここはどこなんだ?」

「ここは、四凶の地の一つ、饕餮の住む山よ。私は饕餮を鎮める女巫なの」

「饕餮……。ああ、だから男子禁制なのか」

 なるほど、ずいぶん遠くまで流されてきたらしい。

「饕餮の女巫なら……お前は親に捨てられたのか?」

「あんたはっきり言うわね。普通はそういうことを心の中で思っても聞かないものよ。……って、これ私がよく人に言われることだわ」

「だろうな。お前、失礼なこと平気で言いそうだし」

「はあ⁉ あんた助けてもらった分際でよく言うわね!」

(……確かに。俺も人に言えないくらい口が悪い。

だが、それを指摘されたことなどなかったし、こんな風に怒られることもなかった。

女の言い方はきついし、無礼ではあるが、不思議と悪い気はしない)