いつもはお前と呼ぶのに、こういう時だけ名前で呼びかけるのはずるいと雪蓉は思った。

 劉赫の目はいつになく真剣で、雪蓉への気持ちが生半可なものではないのだと物語っている。

「無理よ……」

 雪蓉は劉赫から目を逸らし、小さな声で言った。

 本当は、後宮に残ることを何度も考えた。

劉赫が高熱で寝込んでいた三日三晩の間、看病をしながらずっと考えていた。

 好きだと告げられ、劉赫が死んでしまうと思った時、雪蓉にとって劉赫はとても大事な人なのだと気付いた。

 友情や人としての情ではなく、男として劉赫を見ていたことにも。

 劉赫の額に浮かぶ汗を何度も拭きながら、愛おしいと思った。

生きていてくれて良かったと心から安堵した。

もしも劉赫を失っていたら、前の自分には戻れないだろう。

心に大きな穴が空き、無邪気に笑うことはできなくなる。

それくらい、劉赫の存在は雪蓉の中で大きなものだった。

 いつの間に、好きになっていたのだろう。

 劉赫が、まだ皇帝だと知らなかった頃。

別れも告げずにいなくなってしまった彼のことが、ずっと胸の中にいた。

唇を奪われ、腹が立っていたけれど、嫌ではなかったのだ。

 もしかしたら、あの時から、もう心を奪われていたのかもしれない。

 でも、女として劉赫の側にいることはできないと思った。

 小さな女巫たちのことが気がかりだし、何より、自分はもう人ではない。

「それが、雪蓉の出した答えか?」

 劉赫の問いに、雪蓉は頷く。

 劉赫への思いは、生涯胸に秘めておく。

それが、雪蓉の出した答えだ。

「……分かった、好きにするがいい」

 劉赫は抱きしめて留めておきたい気持ちを押し殺し、雪蓉から目をそむけた。

 ……それが、雪蓉の望みなら。