本人も自分が死ぬと思ったのか、最期の言葉として雪蓉に好きだと思いを告げたが、あれからそのことについて触れることもなく、いつも通りに接してきたので、あの告白はなかったことにする気なのだろうと雪蓉は思っていた。

 しかし、劉赫は何かに吹っ切れたかのように、自分の気持ちを素直に表現してくる。

思えば、あの劉赫が素直にありがとうと言ったあたりから妙だったのだ。

 味覚が治ったことといい、劉赫の心の中で何か変化があったのかもしれない。

「そもそも、私は世継ぎ問題に関与していないし。後宮にいたって、劉赫のご飯を作るだけで、妃の務めは果たす気なかったし!」

 雪蓉は胸を張って言い切った。

劉赫は、うぬぬと唸って唇を噛みしめる。

「……仙のところに行ってどうする?

仙術を使えば人間の心は失っていくし、仙の跡を継いで饕餮を鎮める孤独な守り主となるのか?」

「何百年も生きていたいと思わないし、それに孤独じゃないわ。子供たちがいる」

 雪蓉は元々、自分と同じように両親と一緒に暮らしていけない子供たちの世話をして、彼女たちが立派に独り立ちをする様子を見守って生きていきたいと思っていたのだ。

その気持ちは今でも変わらない。

 雪蓉の妙に晴れ晴れとした表情を見て、決意は固いのだと劉赫は悟った。

 饕餮を鎮める女巫だった雪蓉を無理やり貴妃にしたのは劉赫だ。

身分が低すぎると周りから反対されたが、それでも押し切った。

劉赫以外、誰も彼女が妃になることを望んでいないのだ。

摘んではいけない花だったのかもしれない。それでも……。

「俺は、雪蓉に側にいてほしい」

 今度は脅しではなく、純粋な愛の告白だった。