「とぼけないでよ! 味覚が治ったって……良かったわね」

 うっすら涙を浮かべて、純粋に喜んでくれている雪蓉に、劉赫は罪悪感をおぼえ向き合った。

「俺の身を案じていてくれたのか?」

「当たり前じゃない! 何を食べても美味しく感じないなんて、そんな悲しいことってないでしょ?」

 狂喜乱舞し駆けつけたのは、自分が帰れるからではなく、劉赫のことを考えての喜びだった。

雪蓉の意外な優しさに、胸が締め付けられる。

願わくば、今ここで抱きしめたい。

そんなことをしたら、まず間違いなく殴り飛ばされるだろうが。

「……ありがとう」

 素直に礼を述べる。

味覚が治ったのは、雪蓉が苦慮して華延との接見の場を設けてくれたことが一因だろう。

鏡を見ても、自分の顔が神龍には見えなくなった。

頻繁に夢に出てきた、兄たちが目の前で殺されていく様子も見ていない。

 味覚がおかしかったのは、やはり精神的なものが影響していたのだろう。

「これで全てが一件落着ね。私も心置きなく仙婆のところに帰れるわ」

 ……やっぱりそうきたか。

 劉赫の眉間に深い皺が寄る。

「どうしても、帰るのか?」

「むしろ、帰らない理由なんてある?」

 逆に聞き返された。

雪蓉の立場になって考えれば帰りたい気持ちは分かるのだが、はい、そうですかと言って簡単に引き下がれない。

「ある。多いにあるぞ。俺は今後もずっと、お前だけを好きでいる。

他の女には目もくれない。

だから、お前が後宮を出たら世継ぎは生まれない。

舜殷国にとって一大事だ!」

「そうくる⁉」

 熱烈な愛の告白かと思いきや、まさかの脅しだった。

前半の言葉で、うっかり胸がきゅんとしたが、後半部分で気がそがれた。