場面は変わり、暗闇の中ですすり泣く女の声がする。
ここはどこだ。
目が暗闇に慣れると、部屋がぼんやりと見えてきた。
ベッドに上半身を預けながら、布団に顔を押し付け泣いている女性がいる。
柔らかな茶色の髪色。この女性は麗影様だと気付く。
『どうしてなの? どうして子供ができないの? 愛し合っているのに。私たちは心から愛し合っているのに……』
悲痛な泣き声は、夜の闇に混ざり合い、劉赫の胸にずしんと重くのしかかる。
彼女の悲しみが、絶望が、ひしひしと伝わってくる。
煉鵬を愛するがあまり、子ができない悲しみは一層強く、彼女を苦しめる。
また場面が変わった。
今度は皇帝の寝室で、椅子に座りながら項垂れている煉鵬と、その姿を見下ろすように見つめている麗影。
『正気か、麗影』
『もちろんですわ。煉鵬様は、私の夫である前に皇帝。子を作る責務があります。どうか新しい妃をお召しになって』
『麗影は、それでいいのか?』
煉鵬は、項垂れていた顔を上げ、麗影の顔を見た。
麗影は、うっと言葉に詰まりながらも、必死で口角を上げた。
『私は妻である前に、皇妃ですから』
次の瞬間、劉赫の耳に断末魔のような女の悲鳴が聞こえた。
『嫌よ! 絶対嫌! 子供なんかいらないと言って。麗影がいればそれでいいと言ってよ!』
劉赫の耳に響いてくるその声は、煉鵬には聴こえていないようだった。