「こんなことをした仙は一体どこに?」

「そこまでは分からん。だが、こんなに一気に強力な仙の力を使ったのでは、もう……」

 その後の言葉は、仙は話さなかった。

しかし、それは仙がすでに死んでいることを指していることは、誰もが分かることだろう。

 感傷に浸る間もなく、仙は眠っている饕餮を数匹の馬が引く台に乗せるよう指示し、饕餮を紐でぐるぐる巻きに縛った。

饕餮を運ぶ衛兵たちは恐ろしさで顔を真っ青にさせていたが、仙は素知らぬ顔で饕餮の真横に座る。

「そんなに怯えなくても大丈夫じゃ。仮に起きたとしても、わしがすぐに眠らせる。さあ、行くぞ」

 馭者(ぎょしゃ)に声を掛けると、饕餮と仙を乗せた台はゆっくりと動き出した。

「もう行ってしまうの?」

 雪蓉が寂しそうな顔で仙に言った。

「ああ。迷惑を掛けたな」

 久しぶりに会った雪蓉の近況を聞いたり労わりの言葉を掛けることなくあっさりと仙は行ってしまった。

少し寂しくもあるが、仙らしいと雪蓉は思った。

「気を付けて!」

 だんだん遠くなっていく雪蓉が手を振っている。

仙はそれを表情一つ変えずに見ていた。

 そして仙は眠っている饕餮に囁きかけた。

「さあ、帰ろう。〝峻櫂(しゅんかい)〟」