(仙婆は、来る者も拒まないし、去る者も追わない。

女巫の姉様たちが嫁入りする時も、寂しそうな顔を一切見せなかった。

仙は、人の心を失うから?

でも、本当に困った時は、いつも助けてくれる。

私は仙婆に、人の心がなくなったとは思えない……)

 雪蓉は、複雑な思いで、仙を見つめた。

仙が人間ではないことは、不思議とすんなり受け入れられる。

けれど、人の心を失った魔物のような存在には、思えないのだ。

それは、育ててもらった恩や情があるからかもしれないし、そんなことは関係ないかもしれない。

「華延様や衛兵に、仙術をかけた人物は誰なのかしら……」

 雪蓉は呟くと、仙は何でもないことのように答えた。

「結界を破り、驩兜や饕餮を解き放ったのも、さらに、十四年前皇位継承の儀式の際、神龍に宝玉を与え、皇子を殺したのも、同じ人物だろうな。こんなことは普通の人間にはできぬことじゃ」

「人間じゃないってこと?」

「そうじゃ、こんなことができるのは仙しかおらん」

「仙……」

 雪蓉は、寒気を覚えた。

仙は人間じゃない、こんな恐ろしいこともできる存在なのだと現実を突きつけられた。

 そして、饕餮を抑えるために仙術を使った自分は、もう人間ではないのかもしれない。

そう思うと、心臓が凍えるような思いだった。